西郷孤月(1873–1912)は、長野県に生まれ、明治期の日本画に新しい表現を求めた画家です。東京美術学校で橋本雅邦に学び、横山大観や菱田春草らと同時代を歩みました。日本美術院の創立にも加わり、従来の日本画の型にとらわれず、空気や光、自然の気配まで画面に表そうと試みました。山水や風景を得意とし、若くして亡くなったため作品数は多くありませんが、明治日本画の革新期を語るうえで欠かせない存在です。
孤月の作品には、雄大な自然を強く見せるというより、山や水辺に漂う静かな空気をそっと捉えるような繊細さがあります。淡い色調や柔らかな筆づかいには、どこか寂しさや詩情も感じられます。自然の形そのものより、その場に立ったときに心に残る気配を描こうとした作品のように映ります。短い生涯の中で、自らの感覚を信じて新しい日本画を模索した姿勢にも、強く惹かれるものがあります。