安田靫彦(1884–1978)は、東京に生まれ、近代日本画を代表する歴史画家の一人です。日本美術院を中心に活躍し、古代から中世にいたる日本の歴史や人物を主題に、格調高い作品を数多く残しました。古典絵画や仏画、歴史資料を深く学びながら、細く澄んだ線と抑えた色彩によって、静かな緊張感を持つ画面を築いたことに特色があります。代表作には《黄瀬川陣》などがあり、1948年には文化勲章を受章しました。
靫彦の作品を見ていると、歴史上の人物を劇的に誇張するのではなく、その場に流れる気配や人物の内面を静かに伝えようとしているように感じられます。輪郭線は端正で、色彩も控えめですが、その分だけ姿勢や視線のわずかな違いが強く心に残ります。歴史を華やかな物語として見せるのではなく、遠い時代の人間を身近に感じさせるところに、安田靫彦ならではの魅力があるように思います。